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「 クロッカスの花 / 庄野潤三 著」

  「 クロッカスの花 / 庄野潤三 著」

何にでも「いちばん」をつけるのは難しいけれど、いちばん好きな作家と問われれば、私は迷いなく庄野潤三と答える。
出会いは「ザボンの花」という本であった。

インテリアショップの本棚に、ディスプレイ兼商品として並べられた「ザボンの花」に、なぜか惹きつけられ購入した。
結果、流通しているものはすべて、すでに絶版のものなどは図書館や古書店で入手し、著書はみな読んだと断言できるほどに好きな作家となった。

当時はご存命だったので、新刊が出れば、もちろんいの一番に本屋に向かった。
しかしながら断っておくならば、この著者の記す世界は、特別な事件もスリルやサスペンスも起こらない、静かな日常である。
取り上げたこの一冊も、そのほかの多くの著書同様、こまやかなるものから人生の滋味を見出すものなのである。

芥川賞を受賞したとはいえ(受賞作は「夕べの雲」こちらも本当におすすめである)、決して「派手な」作家ではなかった。
今回この一冊を選んだ理由は、中でも第一章が特に瑞々しく、「多摩丘陵に住んで」の一節「変わらない景色なんかない」という部分に、読んだ当時もそして見返す現在も、大きくこころ揺さぶられるからだ。

詳細はここでは省かせていただくが、私の人生は常にジェットコースターのようであった。そして36歳の時にそれに疲れている自分に、やっと気がついた。
「変わらない景色なんかない」というのは「しかしそれもまたよし」と言ってもらえているようで、当時お守りのように感じた。

もうジェットコースターは降りて、ただいまを言える場所を持ちたいと強く願う現在も、この言葉はまた少し意味を変えて私の中に残り続けている。

一冊だけを選ぶことが本当に難しく、特別にそのほかのおすすめも記させていただきたい。
ザボンの花」「ガンビア滞在記」「夕べの雲」「庭の山の木」「絵合わせ」「山の上に憩いあり」「野菜賛歌」「山田さんの鈴虫」「うさぎのミミリー」「けい子ちゃんのゆかた」
※出版年順

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